的場悠人の体和 Tai-wa 日記

理論と実践を行き来するヨガ研究者。ここではヨガ以外のことも。大学時代から継続のブログ。

アーサナとはカラダを使った旅である

柔らかい方が楽しめる?

 ヨガといえば、いろいろなポーズをとるものというイメージを持った方が多いでしょう。ヨガのポーズのことをアーサナと言います。

 

 アーサナには、インドの伝統的なものだけで840万種類もあると言われています。その人の骨格や柔軟性、その時の体調などによってアーサナは異なってくるので、実際には無限にあると言ってよいでしょう。

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 さまざまなポーズをとることは、さまざまな場所を旅するのに似ています。初めて訪れる場所で見たことのない景色に出会うように、新しいポーズをとると、今まで体験したことのない自分に出会います

 例えば、逆立ちをしたことがない人は、逆立ちしたときに見える景色、緊張感、その時の呼吸などを味わったことがありません。自分で逆立ちしてみないと見えない景色があるのです。さまざまなポーズを覚えていくとは、新しい場所に訪れ、今まで見たことのない景色を見ることを楽しみにしている旅行家に近いものがあります。

 

 では、やはりさまざまなポーズをとれるということは大切なのでしょうか。体が柔らかくてたくさんのポーズをとれる人の方が、体が硬くてポーズが限られている人よりヨガを楽しめるのでしょうか。

 

 答えはイエスでありノーです。

 柔軟性よりも大切なこと

 確かに、体が柔軟でとれるポーズが多彩であるほど、味わえる身体感覚も多彩になります。飛行機や船で世界中を旅する旅行家と、近所を散歩するだけの人では、行動範囲も、味わえる景色の多彩さも異なるのと同じです。近所を散歩しているだけでは、世界の絶景と言われるスポットを何カ所も訪れられることはありません。ですから、多彩な感覚を味わうために、自分ができるポーズの範囲を広げていくことは、必要な努力です。旅行家が、新しい景色を求めて今まで訪れたことのない場所を目指すように。

 

 しかし、世界中を旅している人が、近所を散歩するだけの人よりも豊かな人生を歩んでいるのかというと、必ずしもそうとは言えません。それと同じように、多彩なポーズをとれる人が、そうでない人に比べてヨガを深く味わっているかというと、必ずしもそうではありません。

 

 むしろ、近所を散歩するだけで毎日新鮮な気づきがある人のように、シンプルな限られたポーズだけで、ヨガを深く味わっている人もいます。事実、同じポーズであっても、その時の体調、空腹度、時間帯、季節、天候などによって、毎回異なる感覚が得られるはずなのです。ちょうど、毎日散歩する近所の風景が少しずつ異なるように。

 ですから、たとえ限られたポーズしかできなくても、そのポーズの中で味わえる深みを探究できれば、十分にヨガを楽しむことができます。

 

 反対に、多彩なポーズをとることができても、その状態で味わえる感覚を十分に味わっていない人もいます。それは、ヨガを楽しむためには実にもったいないことです。せっかく世界の絶景と言われる場所に訪れても、その景色を見ずに何か他のことをしている旅行家のようなものです。体の柔軟性が増して、多彩なポーズがとれるようになったならば、そのポーズで味わえる感覚をじっくり味わってこそ、ヨガのアーサナです。外形の多彩さだけを求めてポーズを練習するのであれば、それはヨガではなく他の何かです。

 

 というわけで、ヨガのアーサナにおいては、2種類の努力が必要になりそうです。

1、体の柔軟性を高めて、とれるポーズの多様性を高めていくこと。

2、自分ができるポーズの中で、味わえるものをじっくり味わうこと。

 

 特に、2は必須です。その過程で、1もおのずとついてくるのが、理想のアーサナなのではないかな、というのが、今日の僕の結論です。